鬼畜米英に載る母子像

小宮山昭

 

若い人たちに

僕は、我が事務所の所員、学生達、若い世代とそれなりに交わって来ました。経験を一つだけ、非常勤ながら何故か某大学の卒業式後の謝恩会に呼ばれ、壇上に立ちました。米英によるイラク侵攻爆撃開始の直後でした。米英の侵略行為を糾弾しました。場違いのため座は白けました。宴の後、シンパシーを示してくれたのは、助手達とポスドク、僅かな学生でした。

勝手な推断です。安定した地位の専任教員、大中企業に就職する学生達、耳を傾けながらもここでそんな話しをしなくてもと目が虚ろでした。現状の生活に不安や不満を持つ者が世の動向に対する異議に共感する。世の常だと思いました。

どうやら生活を満たしかりにも熱意をもって仕事している若い人達に戦争の実記憶のない僕がその悲惨さを訴えても説得力はしれてます。

ヴェトナム戦争さえ40年前のこととなりました。北区にあった米軍野戦病院に米軍の傷病兵が運び込まれ、沖縄や九州から米軍機が直接ヴェトナムに出撃して日本も直接間接的に参戦状態だったあの頃の反戦デモには若いエネルギーが溢れてました。僕も若かった。

どうもいつもの調子になってしまいますが若い人達を揺るがすためにこんな言い方をしてます。安倍は東アジアに緊張が高まっていると枕詞のように繰り返している。

中国とアメリカも加わった全面戦争、北朝鮮が日本を攻撃するなんてことあり得ますか?尖閣辺りで小競り合いはあるかもしれない。本格的戦争になることを回避する方法は外交的にいくらでもあるはず。アメリカの世界戦略に乗って集団的自衛権とか訳の解らぬこと一言って自衛と称する戦争に巻き込まれることの方がはるかにあり得る。

戦争準備をする以前に、人口問題、食料問題、エネルギー、環境問題危機はそこら中にあって若い貴方方を脅かすかもしれない。そんな時も自分たちだけは今の生活を維持出来る側に居場所を確保するために今の内から準備をしておこう。姑息で身勝手に過ぎない?それもうまく行く保証なんてない。

逃げ場のない問題ばかりなのだから。安倍のすべての政策は、自分と周りの集団の利益保全と安全?を求めて国民大衆を置去りにした一種の逃走のように僕には思える。新聞でも何でも少し真面目な書き物を読んでみたら。そうすれば僕が一人よがりのこと言っているんじゃないことがわかるはずだよ。

 

美大生の創った母子像

ついでに個人的なことをーつ。

僕が大事にしている高さ50センチ程の母子像があります。防空頭巾を被った母親、抱かれて片手を天に伸ばしている赤子は僕自身です。

育った家の3軒先に石井鶴三という彫刻家のアトリエ・住居がありました。画家石井柏亭の弟で芸大教授でもあった具象彫刻の大家です。ある時、鶴一?の書生をしていた美大生が、突然我が家を訪れて母に手渡して行ったのがその母子像です。母とは道ですれ違って会釈をする程度の間柄でした。

母は若いときは姿の良い人でした。若い美大生は感じるところあって石膏の母子像を製作したのだと思います。

僕は疎開児ですから疎開前の1歳そこそこの赤子だったのでしょう。この彫刻の問題は母子像の下に、角を生やした西洋人風の鬼がドルと書かれた麻袋を抱え込んでうずくまっていることです。うずくまった鬼畜米英の腰の上に母子像が立っているのです。聖母子像をも類推させるこの彫刻の芸術的価値はこれで台無しです。恐ろしいのは当事、純真な美大生の心まで軍国主義はねじ曲げてしまっていたことです。限られた集団の狂信が虚偽の宣伝をもって、隅々まで蔓延してしまった事実です。

若い人に今はやりのハンナ・アーレントを読んでもらうのもいいかも。

僕はこの母子像についてそんな主旨で中学生の時、作文を書きました。激賞した教師の批評文は僕の作文よりはるかに長かったのを覚えてます。

今の美大でうずくまったブッシュや習近平の腰の上の母子像なんか製作する学生はいないでしょう。もしいたら物笑いの種か、評価は下の下でしょう。

「本気でそんな作品を製作することに違和感を感じない時代がもし来たら君たち嫌だろう」と美大の卒業生達に言ってやろうと思ってます。